♪ 川本貢司様(指揮者)からのメッセージ

 2015年12月20日。客演指揮者として山口大学管弦楽団の指揮台に立ったその日が、私にとって初めての山口市民会館での演奏機会となりました。島根県益田市で生まれてから高校卒業までその地で育った私にとって、地元島根の県庁所在地松江市と比べて古里からの距離が半分にも満たない場所に位置する山口市は訪れる機会も圧倒的に多く、学生の頃に山口県立美術館で開催された「印象派・後期印象派展」をきっかけにその時代の歴史に興味を持ち、展示された絵を好きになり、そしてその経験が現在の自分の音楽家としての方向性や嗜好を決定づける一因となっていることをはじめ、東京芸術大学入学を目指して作曲や器楽を師事した恩師が山口在住の方であることなど、山口に纏わるエピソードも数え切れず、私に数多の知識や経験、体験をもたらしてくれた山口への恩返しを考えて初共演した山口大学管弦楽団とは2015年以降も共演を重ね、指揮台に立たなかった2017年を除くと共演回数は8回を数え、一昨年からは常任指揮者に就任したことで、これからも引き続き山口市の文化芸術に携わるみなさまと一緒に音楽を通じて関わりを持ち続けられることをとても嬉しく思っています。

 

 その反面、山口大学管弦楽団との継続的な活動のために必要不可欠な演奏会場について、特に音響をはじめとする様々な壁を乗り越えるための方法を模索し続けてきました。もちろんその問題の中には演奏会場だけでなく、大学構内における練習場所をはじめとする日常的な環境なども含まれるのですが、毎年夏から冬までの約ヶ月間練習を続けた集大成である演奏を披露する会場、山口市民会館のことについては特に気になることが多く、特にここ数年は会場確保に関しても頭を悩ませることが増え、別の会場で演奏会を開催することも視野に入れた話し合いを学生たちに指示し、自分でも色々と考えを巡らせはじめていた矢先に「山口市民会館の建替えを実現する会」の方とお知り合いになり、会話を進めていく中で私自身が感じている率直な思いをメールで送らせていただきました。

 後日、そのメールを「山口市民会館の建替えを実現する会」ホームページの応援メッセージとして掲載したいというお話をいただいき、今こうして文章を書かせていただいています。

 

 既に指揮者の同僚篠崎氏からの応援メッセージが寄せられていると聞き、読ませていただきましたが、文化芸術に対する彼の熱い思いや深い愛、そして、時代や世相などの変化による考察など、とても素敵な文章が掲載されている中で、問題点のみを羅列した文章を応援メッセージとして掲載されることに躊躇がなかったか?と問われれば、率直に言って躊躇しかありません。ですが、これから先も山口市で生き続ける、または新たに芽生える文化芸術のことを思い、あえて山口市民会館が音楽を演奏する場として抱える問題について私が感じてきたことを書いた物を載せていただくことにしました。

 

 そのような思いで書かせていただきましたので、この文章は、練習や演奏会で山口大学管弦楽団の学生たちと共に試行錯誤し、私自身が学生たちの思いに応えるために活動していく中で感じていた山口市民会館の問題点を率直に書かせていただいたものです。

 

 これからの山口市の文化芸術発展のために、微力ながら少しでもお役に立てればとても嬉しく思います。

                                      

 

 以下、私が「山口市民会館の建替えを実現する会」に送信したメール本文ですが、掲載させていただくにあたって、説明の補足等、できるだけ原文を壊すことなく少しだけ手を加えたものです。

                                      

 

 先日もお話しさせていただいた通り、山口市民会館が持つ1番の問題点は、ステージと客席というコンサートホールの形態を持ちながら、音響面において音楽イベントを開催するのに「ほぼ」向いていない作りになっていることだと思います。

 

 特にステージ前面(客席に近い部分)に位置する楽器(オーケストラの場合は弦楽器)の音は、反響板の影響をほとんど受けることが出来ないために、客席に近い位置にも関わらず、かなりの音が無駄になってしまうことが必然となってしまい、椅子の角度を工夫する、できるだけ奥に入る等の工夫をしなくてはならず、結果としてあの面積で本来演奏可能な奏者の数をステージに載せることが難しい、といった2次問題も発生しています。

 実際にやってみたわけではないので感覚的な指摘になりますが、技術面(舞台装置等)を見る限り、演奏可能なオペラ、または、演出効果がかなり限定されそうに見えます。

 

 また、搬入口とステージがダイレクトにつながっていることも様々な問題を包有していると思います。例えば、冬場であれば寒気が吹き込んでくる等。搬入口の理想的な形態は、搬入口とステージそれぞれに扉を設置し、それらの扉の間に搬入車両の荷台と同じか、やや大きめのスペースを設けて、搬入の際には搬入口の扉のみ開けて一旦積荷をそのスペースへ下ろす、逆に、搬出の際はステージ側の扉だけ開けて荷物をスペースに揃えてからステージ扉を閉めて、搬入口の扉を開けて作業をする…だと思います(搬入口とステージ、2つの扉と作業スペースに加えて、搬入口に搬入車両全体をカバーできる屋根がついていれば、悪天候下の作業であっても楽器等の積荷にダメージを与えることなく搬出入することが可能になると思います)。

 

 更に理想を追求するならば、搬入口扉、ステージ扉とは別に、作業スペースの中間あたりに楽屋に通じる扉を設置し、仮にステージ上でパフォーマンスが行われていても、パフォーマンスに影響を与えることなく搬入口から楽屋、楽屋を通じて別の部屋に荷物を搬入、または逆方向に搬出できることがベストだと考えます(作業スペースにあるステージに通じる扉、楽屋からステージにつながる扉には高い防音性が備えられていることが必須です)。

 他にも細々と気になる点はありますが、大きくはこのあたりでしょうか。 

 川本貢司(指揮者)